再雇用で「給与引き下げ」

東京地方裁判所で5月13日に奇妙な判決が下りました。再雇用での給与の引き下げは違法だというのです。

そもそも再雇用などという制度が出てきたのは、年金支給年齢の引き上げとともに、空白期間を回避するために経営者に65歳までの雇用の確保が義務付けられたからです。一般的には60歳が定年とされていますが、65歳までの5年間の雇用確保の方策として3つの方法が用意されています。

①定年を65歳以上まで引き上げる。
②定年を60歳のまま、労働者が希望すれば、定年後も65歳まで再雇用する。
③定年制そのものを廃止する。

そして、多くの会社が②の再雇用の方法を選択しています。

なぜ②の再雇用方式が主流になったかというと、一旦契約を打ち切った上で、再度労働契約をまきなおすため、労働条件の変更が可能とされていたからです。当然、ここでは賃金の減額も含まれます。

実際に多くの会社では再雇用制度を採用し、給与の相場は定年前の6割から7割が一般的といわれています。これは中小零細企業に限ったことではなく、例えば、大和ハウス工業では定年前の6割の水準に設定しているそうです。

今回の東京地裁の判決は再雇用制度を否定するものであり、上級審でもこの判決が維持されれば、今後の雇用環境に大いに影響することになります。

大方の予想では上級審ではこの判決は修正変更されるとの見方のようですが、地裁とはいえ、このような判決が出てしまったことは驚きです。

企業としては再雇用しても賃金を下げれないのであれば、年功序列型を完全に排除する方向に完全にシフトしていくことになるでしょう。日本型の雇用形態の維持は困難になります。

昨日、総務省から家計調査報告が発表されましたが、60歳以上の世帯と若年世帯との貯蓄金額には大きな差があります。

人件費として使える金額には限りがあり、それをどのように分配するかというのはある程度企業の判断に委ねるべきです。

独身世代は賃金を抑え、結婚、子育てでお金がかかる世代には手厚くという日本型の温かみのある雇用形態は終焉を迎えているようです。